2019
09.25

表面反応に対する反応経路ネットワークの作成・解析手法を
“Physical Chemistry Chemical Physics”に発表

研究研究紹介

表面反応に対する反応経路ネットワークの作成・解析手法を<br />“Physical Chemistry Chemical Physics”に発表

 研究成果概要

北海道大学大学院 総合化学院 理論化学研究室の杉山 佳奈美(リーディングプログラム4期生)は、表面反応の反応経路ネットワークの作成および解析手法を開発し、その研究成果をPhysical Chemistry Chemical Physicsに筆頭著者として発表しました。本研究では白金表面上のCO酸化反応について、化学反応に関与する反応物、中間体、生成物など多数の構造とそれらをつなぐ経路から成る反応経路ネットワークを作成しました。さらに、得られたネットワークに対して速度論的解析を適用することで反応機構を明らかにしました。本手法は機構未知の系も含めさまざまな表面反応へ適用可能であり、今後はより複雑な表面反応への応用が期待されます。

 研究背景

触媒を用いた化学反応(触媒反応)は、私たちの生活に欠かせないものです。最も身近な触媒反応として、自動車のエンジンから排出される排気ガス中に含まれる有毒な一酸化炭素(CO)を排気管の途中に設けられた触媒装置によって無害な二酸化炭素(CO2)に変換するCO酸化反応(2CO + O2 → 2CO2)が挙げられます。CO酸化反応では白金(Pt)を主成分とした固体触媒が用いられているため、白金表面上のCO酸化反応を対象とした研究が広く行われています。

 白金表面上のCO酸化反応には、CO分子やO2分子が白金表面へ吸着する過程、O2分子が2つのO原子に解離する過程、CO分子とO原子が会合してCO2分子が生成する過程、生成したCO2分子が白金表面から脱離する過程、それらの分子が白金表面上を移動(マイグレーション)する過程、といったさまざまな反応素過程(図1)が含まれているため、重要な反応経路を見つけることは簡単ではありません。そこで著者らは、人工力誘起反応(AFIR)法(※1)を用いた反応経路探索と、速度定数行列縮約(RCMC)法(※2)による速度論的解析を組み合わせ、表面反応の包括的解析手法を開発しました。本論文では、Pt(111)面上で起こるCO酸化反応を対象とし、その反応機構を議論しました。

 

図1 表面反応におけるさまざまな反応素過程。

 

 研究成果

AFIR法による反応経路探索から得られた、反応温度T = 300 KにおけるPt(111)面上のCO酸化反応の反応経路ネットワークを図2に示します。

 

図2 Pt(111)面上のCO酸化反応の反応経路ネットワークと吸着構造(反応温度T = 300 K)。丸や四角は安定構造、それをつなぐ線は素過程を示す。太線で描かれた26本の素過程は反応の律速となる素過程である。

 

この 反応経路ネットワーク中には133個の安定構造と298本の反応素過程が含まれています。それぞれの安定構造(MIN)は、エネルギーが安定な順にMIN0〜MIN132とラベルが付けられ、吸着構造の種類によって丸や四角などの6種の図形で描かれています。一方、反応素過程は安定構造どうしをつなぐ線として描かれており、各々の線の色は遷移状態(TS)のエネルギーを反映しています。特に太線で描かれた26本の素過程は反応の律速となる素過程を表しています。

 

 RCMC法による速度論的解析を図2の反応経路ネットワークに対して実施し、反応全体の律速過程を抽出した結果を図3に示します。RCMC法では設定した反応時間よりも短時間で進行し得る構造をグループ(超状態)にまとめ、ネットワークを粗視化します。粗視化されたネットワークにおいて超状態間をつなぐ過程が律速過程に対応します。

 

図3 RCMC法により異なる時間スケールで粗視化した反応経路ネットワーク(反応温度T = 300 K)。

 

図3(a)は反応時間を1.0×10-1秒と設定した場合の結果で、図2と対応しています。このとき、ネットワークは反応物領域、O2が解離吸着した中間体領域、生成物領域(その他の構造を含む)の3つのグループに分けられました。少し反応時間を延ばし1.0秒と設定した(b)の場合では、(a)の場合における中間体領域が反応物領域の中にまとめられることで、反応物領域と生成物領域の2つのグループが得られました。ここから、(a)の反応物領域から中間体領域への過程は1.0×10-1秒以内では進行しないが1.0秒以内で進行し得ることがわかります。また、(b)の反応物領域と生成物領域をつなぐ過程(CO+2O→CO2(g)+O)が、反応全体の律速段階であるということもわかりました。さらに反応時間を延ばし1.0×103秒とした(c)の場合に、反応物領域と生成物領域が1つにまとまることから、CO酸化反応は1.0×103秒以内に完了することもわかりました。

 

社会的意義・今後の予定

本手法の枠組みは、事前に機構を推定する必要がなく表面反応に関与する反応物、中間体、生成物など多数の構造とそれらをつなぐさまざまな経路が予測可能です。そこで今後は、より実用的で複雑な表面反応への応用を進めていく予定です。将来的には理論化学によって高性能な触媒反応を提案することを目指し、反応解析にとどまらず反応設計にも取り組みたいと考えています。

 

 論文情報

研究論文名:Understanding CO oxidation on the Pt(111) surface based on a reaction route network

著者:杉山佳奈美、住谷陽輔、高木牧人、斉田謙一郎、前田理

公表雑誌:Physical Chemistry Chemical Physics 2019, 21, pp 14366-14375 (2019年1月28日Web公開)

DOI番号:10.1039/c8cp06856a

 

付記(科研費や助成金)

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」および北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラムによる助成を受けて行われました。

 

 用語解説

※1 人工力誘起反応(AFIR)法

 化学反応の機構は、ポテンシャルエネルギー曲面(PES)上のエネルギー極小点である安定構造(MIN)と、一次鞍点である遷移状態構造(TS)から解析されます。AFIR法は、PES上の安定構造や遷移状態を網羅的に求めることができる手法です。

 図4に原子Aと原子Bが反応し分子ABを生成する場合を示します。

 

図4 A + B → ABの場合のAFIR法の模式図。

 

PES上の遷移状態を求める計算は、計算コストも大きく容易ではありません。そこでAFIR法では、反応物同士を「押し付ける」(図4中の青矢印に対応)ことで反応を誘起し、誘起されたエネルギー関数(緑線)上をたどる、つまり構造最適化を行うことで速やかに生成物ABを求めることができます。足した項(人工力項、αrAB )を引くことで、元のエネルギー関数(黒線)も容易に得られ、遷移状態を決定することが可能です。

 より複雑な多原子分子の場合には、AとBの選び方も複数通り考えられ、それぞれの組み合わせについてAFIR法を適用することでさまざまな構造が得られます。得られた構造に対しても同様に探索を行えば、PES上の構造や反応経路の網羅探索が実現します。

 

※2 速度定数行列縮約(RCMC)法

 AFIR法による網羅探索で得られる構造や反応経路の数は膨大であり、ひとつひとつを目で見て解析することは困難です。そこで反応速度論に基づいて構造をグループ分けし、反応全体の律速段階を抽出します。詳細はプログラムパイロット生だった住谷陽輔さんの記事(下記)で解説されています。

https://ambitious-lp.sci.hokudai.ac.jp/report/event/qualifying-examination/repo_6280.html

 

 

 

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