2016
12.26

ジャーナリストが数理連携の現場を取材
~平成28年度「日本数学会 ジャーナリスト・イン・レジデンス」実施報告~

インタビュー数理連携

ジャーナリストが数理連携の現場を取材 <BR>~平成28年度「日本数学会 ジャーナリスト・イン・レジデンス」実施報告~

平成28年10月17‐21日、三輪 佳子氏(フリーランス・ライター)が理学部4号館の一室に滞在し、フロンティア数理物質科学IIIをはじめとする本プログラムの講義の模様や、数学専攻の教育・研究に関して取材しました。今回の活動報告では、三輪 佳子氏によるレポート「北大ALPが進める数理連携の現状と展望」を紹介します。

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北海道大学物質科学リーディングプログラムが進める数理連携の現状と展望

三輪 佳子氏  Ms. MIWA Yoshiko
フリーランス・ライター

北海道大学物質科学リーディングプログラム(以下ALP)では平成28年度から、3名のリサーチ・アシスタント(RA)が、院生指導・共同研究・もちろん自分自身の研究に取り組んでいます。日々の多様な業務の中、彼らは何を思っているのでしょうか?

臼井氏
写真:数理物理学を専門とする臼井耕太さん

「もともとの関心対象は現代数学を『きれい』に使って量子力学を理解すること」と語る臼井耕太さんは、今、有機化学を専攻する院生と、化学反応の進む・進まないを数学的に研究しており、「反応が進むときに数学的に何が起こっているか、見つけたところなんです」と嬉しそうです。さらに「理論物理や理論化学などで『数学を本気で気にしたら解けないから』で済まされている部分一つ一つを、それが現象の本質なのか、それとも今の手法に数学的な問題があるのか、明らかにしたいです。物理にも化学にも他分野にも、もちろん数学にも多大なメリットがあるはず」と希望を語ります。

笠原氏
写真:調和解析を専門とする笠原雪夫さん

予測理論の研究、特に予測を行う方法そのものに関する理論と応用を研究している笠原雪夫さんは、「数学と異分野のコラボは、数学を研究する者として嬉しい」と述べ、ALPの必修科目の一つ「自分の研究を他分野の人に説明する」の重要性を「スムーズには伝わらないのですが、ワイワイ議論したり、遠慮のない素人質問に『自分も実は良く知らかった』と気づいたり、研究室の『あたりまえ』の根拠を答えられなかったり……楽しくて勉強になる、貴重な時間になっています」と語ります。

笹山氏
写真:偏微分方程式を専門とする笹山智司さん

「伸び縮みする物体の中での波の伝わり方を研究しています。波を表す数式を直接解くのは難しいので解ける形にすること、その『解ける』の確かさを数学的に実証することが研究内容です」と語る笹山智司さんは、学術研究の場でも企業でも広く活用されているコンピュータによる数理解析に「コンピュータを過信しているのでは?」と心配になるシーンが時々あるそうです。「データを解析ツールに入力して答えが出力されたとき、入力したデータから出た答えなのか、それともツールに入っている数式の性質から出た答えなのか、考える必要があるはず。でも考えるためには数学の専門性が必要なんですよね。数学がこれから貢献できる研究、たくさんありそうです」(笹山さん)

フロンティア数理Ⅲ
写真:フロンティア数理物質科学IIIの授業でリサーチアシスタントをする様子

3人は、ALPの取り組みの意義を「異分野間コラボが盛り上がる土壌」(臼井さん)、「自分の研究を他分野の視点から見て何が足りないか自覚できる院生が、リーダーとして活躍する将来に期待」(笠原さん)、「数学が大切にしている論理的思考を研究計画に取り込む必要性が他分野から認識され始める機会」(笹山さん)と肯定的に語る一方で、共通の懸念を抱いています。
「複数分野の専門家育成は、プロジェクト型ではなく長いスパンで、学部を新設するほどの体制で取り組み、20年くらい続けないと、難しいと思います」(臼井さん)
長期に取り組まれてこそ意義あるALPの取り組みが継続され、研究にも人の育成にも社会の発展にも大き く貢献している数十年後を、心から願わずにいられません。

三輪氏

三輪 佳子氏 Ms. MIWA Yoshiko
フリーランス・ライター

大学院修士課程(物理学・光情報処理)修了後、企業内研究者を経てフリーランス・ライターになる。科学・技術を主な守備範囲としていたが、中途障害者となった経験から社会福祉・社会保障に関する執筆にも取り組む。2014 年には一連の記事と単行本「生活保護リアル」(日本評論社)で貧困ジャーナリズム大賞を受賞。現在は大学院博士課程で生活保護政策の政治過程も研究している。

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構成:リーディングプログラム事務局工学分室

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